「広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)」と「自閉症(じへいしょう)」、この二つの言葉を聞いたことはありますか? 「なんだか似ているけれど、どう違うの?」と疑問に思った方もいるかもしれません。今回は、この広汎性発達障害と自閉症の違いについて、わかりやすく解説していきます。

広汎性発達障害と自閉症、その関係性とは?

まず、大前提として理解しておきたいのは、「自閉症」は「広汎性発達障害」という大きなカテゴリーの中に含まれる、ということです。つまり、自閉症は広汎性発達障害の一種と考えることができます。そのため、広汎性発達障害と自閉症の違いを考える際には、自閉症が広汎性発達障害の全体像の中で、どのような位置づけになっているのかを理解することが大切です。 この関係性を把握することが、広汎性発達障害と自閉症の違いを理解する上で非常に重要です。

  • 広汎性発達障害:発達の偏りによって、社会性、コミュニケーション、想像力などに特徴が見られる状態の総称。
  • 自閉症:広汎性発達障害の代表的なものの一つで、特に社会性やコミュニケーションに著しい困難さが見られる状態。

では、具体的にどのような点が違うのでしょうか。広汎性発達障害は、自閉症スペクトラム障害(ASD)という診断名に統合された経緯があります。ASDには、以前は別々に診断されていた自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害などが含まれるようになり、その診断基準も変化してきました。

広汎性発達障害(旧称) 自閉症スペクトラム障害(ASD)
自閉症、アスペルガー症候群、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害など (上記が含まれる)

このように、診断名としては「広汎性発達障害」という言葉は、現在では「自閉症スペクトラム障害(ASD)」という診断名に統合され、使われることが少なくなってきています。しかし、かつて「広汎性発達障害」という言葉で理解されていた特徴や、それらの診断群に含まれていた個々の障害の特性を理解することは、今でも非常に役立ちます。

自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性

ASDの特性は、一人ひとりの個性によって大きく異なります。しかし、一般的には以下のような特徴が見られます。

  1. 社会的コミュニケーションの困難さ: 相手の気持ちを察したり、言葉の裏にある意味を理解したりするのが苦手な場合があります。また、視線が合いにくい、表情が乏しいといった特徴が見られることもあります。
  2. 限定された興味や反復行動: 特定の物事に強いこだわりを持ったり、同じ行動を繰り返したりすることがあります。例えば、特定のテーマについて延々と話したり、手先を動かし続けたりするなどです。
  3. 感覚過敏または鈍麻: 音や光、触覚などに過敏に反応したり、逆に鈍感であったりすることがあります。これにより、日常生活で困ることがあります。

これらの特性は、その程度や現れ方が人それぞれです。そのため、「スペクトラム(連続体)」という言葉が使われ、多様な現れ方があることを示しています。 一人ひとりの特性を理解し、その人に合ったサポートをしていくことが大切です。

特性 具体的な例
社会的コミュニケーション 相手の表情や声のトーンから感情を読み取るのが難しい
冗談や皮肉が通じにくい
限定された興味・反復行動 電車や恐竜など、特定のテーマに異常なほど詳しい
決まった道順でないと不安になる
感覚 大きな音が苦手で耳を塞ぐ

ASDの特性は、これらのリストに当てはまるからといって必ずしも診断されるわけではありません。専門家による総合的な評価が必要です。

アスペルガー症候群の旧称としての特徴

かつて「広汎性発達障害」という言葉で語られることが多かったものの中に、「アスペルガー症候群」という診断名がありました。ASDに統合された現在でも、その特徴を理解することは役立ちます。アスペルガー症候群は、

  • 知的発達に遅れはない
  • 言語発達にも明らかな遅れはない

という特徴がありながらも、

  1. 社会的相互作用の困難さ
  2. 限定された興味と反復行動

といった、ASDに共通する特性が見られるのが特徴でした。知的な遅れがないため、周囲からは気づかれにくく、本人が二次的な問題(例:うつ病、不安障害)を抱えやすいこともありました。 この「知的な遅れがない」という点が、かつて広汎性発達障害の中でアスペルガー症候群を区別する重要なポイントの一つでした。

例えば、学校生活では、授業内容は理解できても、友達との関わり方やグループでの活動が苦手で孤立してしまう、といったケースが見られました。

アスペルガー症候群(旧称)の主な特徴
社会的コミュニケーションの苦手さ
興味・関心の偏り、こだわり
決まった手順やルーティンを好む
感覚過敏・鈍麻

しかし、ASDという診断名に統合されたことで、より包括的に特性を捉え、一人ひとりに合った支援が行われるようになっています。

広汎性発達障害と自閉症の「違い」を理解することの意義

現在では「広汎性発達障害」という言葉は診断名としては使われなくなっていますが、その言葉が指し示していた「発達の偏り」という概念を理解することは、今でも非常に重要です。広汎性発達障害という広い枠組みの中で、自閉症がどのような位置づけにあるのかを理解することで、

  • 特性の多様性を把握する: 自閉症だけでなく、他の発達障害の特性も理解する手助けになります。
  • 個別性の重視: 「広汎性発達障害」という言葉で一括りにされていた特性が、より細かく「自閉症スペクトラム障害」として理解されるようになり、一人ひとりの個性や困難さに合わせた支援が可能になりました。
  • 早期発見・早期支援: 発達の遅れや偏りに早期に気づき、適切な支援につなげることの重要性が増しました。

過去の診断名や概念を理解しておくことで、現在行われている診断や支援の背景をより深く理解することができます。

例えば、かつて「広汎性発達障害」と診断されていた方が、現在ではASDとして診断され、それに合わせた支援を受けている、といったケースは少なくありません。これは、診断基準がより科学的に進化し、より的確に個々の特性を捉えられるようになった結果と言えます。

過去の広汎性発達障害という概念で理解することの意義
発達の偏りの概念の理解
多様な特性への理解
個別の支援の重要性の再認識

このように、言葉の移り変わりはありますが、その背景にある「発達の偏り」という理解は、支援の現場で今も活かされています。

コミュニケーションの特性における違い

広汎性発達障害と自閉症(ASD)の特性において、特にコミュニケーションの取り方には違いが見られます。しかし、これも「スペクトラム」であるため、個人差が非常に大きいです。

  1. 言葉の理解: ASDでは、言葉の表面的な意味は理解できても、文脈や相手の意図を汲み取ることが苦手な場合があります。比喩や皮肉、冗談などは理解しにくいことがあります。
  2. 言葉の発達: 言葉の発達に遅れが見られる場合もあれば、流暢に話せるものの、会話のキャッチボールが苦手な場合もあります。
  3. 非言語コミュニケーション: 視線が合いにくい、表情が乏しい、ジェスチャーが少ないなど、非言語的なサインを読み取ったり、使ったりするのが苦手なことがあります。

これらのコミュニケーションの特性を理解することで、円滑な人間関係を築くためのサポートが可能になります。

例えば、直接的で分かりやすい言葉で伝える、指示を具体的に示す、といった工夫が有効です。

  • ASDの人がコミュニケーションで苦手とすること:
    • 相手の気持ちや意図の推測
    • 場の空気を読むこと
    • 冗談や皮肉の理解
    • 非言語的なサインの読み取り

これは、相手を困らせようとしているわけではなく、脳の特性によるものです。

社会的相互作用の特性における違い

社会的相互作用(人との関わり方)も、広汎性発達障害(ASD)の特性として重要な部分です。ここにも、個人差はありますが、以下のような特徴が見られます。

  • 人間関係の構築: 友達を作ったり、維持したりすることが苦手な場合があります。集団行動よりも、一人でいることを好む傾向が見られることもあります。
  • 共感の難しさ: 相手の感情に寄り添うことが難しい場合があります。相手が困っていても、どのように声をかけて良いか分からない、といった状況になることも。
  • 社会的なルールの理解: 暗黙の了解や、その場その場の状況に応じた適切な振る舞いを理解するのが難しい場合があります。

このような社会的相互作用における困難さを理解することが、本人だけでなく周囲の人々との良好な関係を築く上で不可欠です。

例えば、集団で遊ぶのが苦手な場合は、少人数で遊べる機会を設けたり、共通の興味を持つ人と交流できる場を提供したりすることが効果的です。

社会的相互作用における特性 具体的な例
人間関係の構築 「友達」という概念を理解するのが難しい
共感 相手が泣いていても、どうしたら良いか分からず傍観してしまう
社会的なルール 順番を守ることが極端に苦手

これらの特性は、本人の意思ではなく、脳の機能的な違いによるものです。

興味・関心の偏りと反復行動

広汎性発達障害(ASD)の特性として、興味・関心の偏りや反復行動もよく見られます。これも、その現れ方は人それぞれです。

  1. 限定された興味: 特定のテーマ(例:電車、恐竜、歴史上の人物など)に異常なほど詳しくなり、そのことばかり話すことがあります。
  2. 反復行動: 同じ行動を繰り返したり、決まった手順でないと気が済まなかったりすることがあります。手先をパタパタさせたり、同じ言葉を繰り返したりすることもあります。
  3. 変化への抵抗: 急な予定変更や、いつもと違う状況に強い不安を感じることがあります。

これらの特性は、本人の「こだわり」というよりも、安心感を得るための行動であることが多く、理解が必要です。

例えば、強いこだわりがある場合は、そのこだわりを否定するのではなく、ある程度尊重しつつ、他の活動にも目を向けられるように促すことが大切です。

  • 興味・関心の偏り:
    • 特定分野の知識が専門家レベル
    • その分野以外の話題には無関心
  • 反復行動:
    • 決まった時間に決まった行動をする
    • おもちゃを並べる、回す

これらの行動は、本人にとって大切な「自分を落ち着かせる方法」である場合があります。

感覚過敏・鈍麻について

広汎性発達障害(ASD)の特性として、感覚の過敏さや鈍麻も挙げられます。これは、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)や、体の感覚(位置感覚、バランス感覚)など、様々な感覚で起こり得ます。

  • 感覚過敏:
    • 小さな音がとても大きく聞こえる
    • 明るい光が眩しくて耐えられない
    • 服のタグや縫い目が気になって仕方がない
    • 特定の食べ物の味や匂いに強い抵抗がある
  • 感覚鈍麻:
    • 痛みを感じにくい
    • 暑さや寒さを感じにくい
    • 自分の体の位置が分かりにくい

これらの感覚の違いは、日常生活に大きな影響を与えるため、周囲の理解と配慮が不可欠です。

例えば、感覚過敏があるお子さんには、静かで落ち着ける場所を用意したり、刺激の少ない服を選んであげたりすることが大切です。

感覚 過敏な場合 鈍麻な場合
聴覚 掃除機の音、人の話し声に過剰に反応 大きな音にもあまり気づかない
視覚 蛍光灯の光に耐えられない 人の表情の変化に気づきにくい
触覚 服の素材、肌触りが気になる 怪我をしても気づきにくい

感覚の違いは、本人にとって非常に辛い場合もあります。

まとめ:広汎性発達障害と自閉症の違い、そして大切なこと

「広汎性発達障害」という言葉は、現在では「自閉症スペクトラム障害(ASD)」という診断名に統合されています。しかし、かつての「広汎性発達障害」という概念が指し示していた発達の偏りの多様性を理解することは、ASDの理解を深める上で非常に役立ちます。自閉症はASDの代表的なものであり、ASDはより広範な特性を持つ人々を包括する言葉です。 最も大切なのは、診断名にとらわれすぎず、一人ひとりの個性や困難さを理解し、その人に合った温かいサポートをしていくことです。

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