「横領(おうりょう)」と「着服(ちゃくふく)」、どちらも似たような意味で使われがちですが、実は法律上、明確な違いがあります。この二つの言葉の 横領 と 着服 の 違い を理解することは、ビジネスや日常生活におけるトラブルを避けるためにとても重要です。
原因と結果にみる横領と着服の決定的な違い
横領と着服の最も大きな違いは、その行為がどのようにして始まったのか、つまり「原因」と、それによってどのような結果が生じたのか、という点にあります。どちらも他人の財産を勝手に自分のものにしてしまう行為ですが、その背景にある事情が異なります。
横領は、一般的に、預かっていたり、管理を任されていたりした他人の財産を、自分のものとして「自分のために」使う、あるいは処分してしまう行為を指します。例えば、会社の経理担当者が、預かっている会社の売上金を、個人的な借金の返済に充ててしまうようなケースです。この場合、本来は会社の財産であるお金を、自分の都合で使ってしまっています。
- 横領の主な特徴:
- ・預かっていた、あるいは管理を任されていた財産が対象
- ・自分のものとして処分・利用する意図がある
- ・結果として、財産が本来の所有者から離れる
一方、着服は、横領と似ていますが、より「手元にある」財産を不正に取得するニュアンスが強いです。例えば、お店でお客さんから受け取ったお釣りを、ごまかして多く受け取ったように見せかけ、差額を自分の懐に入れてしまうような場合です。これは、まだ自分の手元にはない、お客さんの財産(お釣り)を、不当に自分のものにしていると言えます。
この二つの行為の区別は、法的な処罰や責任の所在を考える上で非常に重要です。
具体的な事例で理解を深める!
では、もう少し具体的な例を挙げて、横領と着服の区別を明確にしていきましょう。
例えば、あなたが友人の大切にしているコレクションを一時的に預かったとします。そのコレクションを、許可なく自分で売ってしまい、そのお金を自分のために使ってしまったら、これは「横領」にあたる可能性が高いです。なぜなら、あなたは友人の財産を「預かっていた」立場であり、それを「自分のものとして処分」したことになるからです。
- 横領の例:
- ・会社の備品を個人的な趣味のために持ち出し、売却する。
- ・顧客から預かった現金や有価証券を、個人的な用途に流用する。
- ・遺言執行者として管理する遺産を、自分の相続財産に混ぜてしまう。
対して、あなたがコンビニでアルバイトをしていて、お客さんから1,000円を受け取り、お釣りを800円渡すべきところを、誤って500円しか渡さなかったとします。そして、その差額の300円を、レジを閉める際に自分のポケットに入れてしまったら、これは「着服」と見なされることがあります。これは、まだお客さんの手元に戻るべきお金が、あなたの手元で不当に取得された形だからです。
| 行為 | 財産の状態 | 不正な意図 |
|---|---|---|
| 横領 | 預かり物、管理物 | 自分のものとして利用・処分 |
| 着服 | 手元にあるもの(一時的に) | 不当に自己の利益とする |
法律上の位置づけと罰則
横領と着服は、どちらも刑法上の「窃盗罪」や「遺失物等横領罪」など、関連する犯罪として扱われます。ただし、その具体的な罪名や罰則は、行為の内容や、どのような関係性で財産を扱っていたかによって変わってきます。
横領罪とは?
横領罪は、他人の財産を不法に領得する犯罪です。刑法第252条に規定されており、5年以下の懲役が科せられる可能性があります。ポイントは、「自己の占有する他人の物を横領した」という点です。
- 横領罪のポイント:
- ・「自己の占有」:自分の支配下にある状態
- ・「他人の物」:所有権が他にあるもの
- ・「横領」:自分のものとして権利を主張したり、利用したりすること
例えば、会社の代表取締役が、会社の資金を自分の個人的な借金返済のために勝手に引き出して使った場合、これは会社の財産を不法に自分のものとした「横領」にあたります。
着服と似た犯罪:背任罪との関係
着服という言葉は、法律用語として厳密に定義されているわけではありませんが、実質的には横領罪や、場合によっては「背任罪(はいにんざい)」という犯罪に近い行為を指すことがあります。背任罪は、他人のためにする義務があるのに、その任務に背いて、本人に損害を与える行為を指します。
例えば、会社の取締役が、会社の利益よりも自分の利益を優先して、不当な取引を行って会社に損害を与えた場合などがこれにあたります。着服も、広義にはこのような「任務違反」と「損害」を伴う行為と捉えることができます。
| 罪名 | 主な内容 | 関連する行為 |
|---|---|---|
| 横領罪 | 他人の財産を不法に自分のものにする | 預かっていたお金を勝手に使う |
| 背任罪 | 任務に背いて他人に損害を与える | 役員が個人的な利益のために会社に損害を与える |
「預かり物」と「手元にあるもの」の視点
横領と着服を理解する上で、「預かり物」なのか、「一時的に手元にあるもの」なのか、という視点も重要です。この違いは、財産が本来の所有者の支配を離れて、不正に取得されたという認識に影響を与えます。
横領の場合、その財産は「本来、自分の所有物ではないが、一時的に自分の管理下や支配下にあるもの」という前提があります。つまり、その財産は、本来の所有者に返還されるべきもの、あるいは本来の用途に用いられるべきものです。それを自分の都合で勝手に処分したり、利用したりする行為が横領です。
- 預かり物に関連する横領の例:
- ・弁護士が依頼人から預かった訴訟費用を、個人的な遊興費に充てる。
- ・不動産業者が、売主から預かった手付金を、自分の会社の運転資金に回す。
- ・家賃の集金代行を委託された管理会社が、集めた家賃を横領する。
一方、着服は、より「現に自分の手元にある」財産を、その場で不正に自分のものにしてしまうニュアンスがあります。例えば、レジの売上金をごまかしたり、飲食店の売上金の一部を抜き取ったりする行為がこれにあたります。まだ会計処理が確定していない、あるいは本来であればすぐに返還されるべきお金などが対象となりやすいです。
この「預かり物」か「手元にあるもの」か、という区別は、事件の性質を判断する上での手がかりとなります。
行為の「意図」と「目的」
横領と着服の区別において、行為者の「意図」や「目的」も重要な要素となります。なぜその行為を行ったのか、という動機が、法的な評価に影響を与えることがあります。
横領の場合、一般的には「自分のものとして、積極的に利用・処分したい」という意図が強く働きます。これは、単に一時的に不正に財産を「取得」するだけでなく、それを自分の財産のように扱いたい、という意思表示とも言えます。例えば、預かっていたお金で、高級車を買ってしまうようなケースです。
- 横領における意図・目的:
- ・自己の利益を最大限に得ようとする。
- ・財産を自分の所有物のように扱いたい。
- ・一時的な使用にとどまらず、継続的な利用や処分を目的とする。
一方、着服の場合、その意図は「一時的に、少額でも不正に利益を得たい」という、より目先の利益に目がくらんだ結果であることが多いと考えられます。もちろん、悪質性が高ければ横領罪として処罰されることもありますが、行為の規模や意図によっては、より軽微な罪とされる可能性もあります。
「計画性」の有無
さらに、行為の「計画性」の有無も、横領と着服の区別を考える上で参考になります。横領は、ある程度の計画性を持って行われることが多いと考えられます。例えば、経理担当者が会社の資金の流れを把握しており、どのタイミングで、いくら抜き取ればバレにくいか、などを考えて実行するケースです。
| 行為 | 計画性の有無 | 意図・目的 |
|---|---|---|
| 横領 | 高い傾向 | 財産を自己のものとして積極的・継続的に利用・処分 |
| 着服 | 低い傾向(衝動的な場合も) | 一時的・目先の利益の不正取得 |
まとめ:横領と着服、それぞれの意味を正しく理解しよう
ここまで、横領と着服の主な違いについて、原因、結果、具体的な事例、法律上の位置づけ、そして行為者の意図や計画性といった様々な側面から解説してきました。 横領 と 着服 の 違い は、一見すると些細なように思えるかもしれませんが、法的な責任を問われる際には非常に重要なポイントとなります。
端的に言えば、横領は「預かっていたり、管理を任されていたりした他人の財産を、自分のものとして処分・利用する行為」、着服は「手元にある他人の財産を、一時的に不正に自分のものにする行為」と捉えることができます。どちらも許される行為ではなく、発覚すれば法的な処罰を受ける可能性があります。
この二つの言葉の正確な意味を理解しておくことで、日々の生活や仕事における誤解やトラブルを防ぎ、より健全な人間関係やビジネスを築くことができるでしょう。