「半側空間無視」と「半盲」。どちらも脳の病気などで起こる、見え方や空間の認識に関わる現象ですが、実はまったく違うものです。この二つの違いを理解することは、その原因や対処法を知る上でとても大切です。「半側空間無視と半盲の違い」について、わかりやすく解説していきましょう。
「見える」と「認識する」の大きな隔たり
まず、一番大きな違いは、視覚そのものに問題があるのか、それとも脳が視覚情報をどう処理するかに問題があるのか、という点です。「半盲」は、文字通り「見る」という機能、つまり光を感じて脳に情報を送る経路に問題がある状態です。一方、「半側空間無視」は、目はきちんと見えているのに、脳が空間の一部からの情報を「無視」してしまう、認識の問題なのです。
具体的に言うと、半盲の場合、視野の半分が文字通り見えなくなります。これは、目の病気や、視覚情報を脳に伝える神経の通り道が傷ついたことが原因で起こります。例えば、右半分が見えない、左半分が見えない、といった形で、物理的に「見えない」領域が存在します。
それに対して、半側空間無視は、見たものが認識されないという点が特徴です。「右側にあるのに、右側を認識できない」「左側にあるはずなのに、左側を避けてしまう」といった現象が起こります。これは、脳の「空間を認識する」という働きに障害が起きているためで、 この認識の障害を理解することが、適切なケアにつながるのです。
- 半盲の主な原因:
- 目の病気(網膜剥離、緑内障など)
- 視神経の障害
- 脳の視覚野(視覚情報を処理する場所)の損傷
半側空間無視の不思議な世界
半側空間無視は、文字通り「空間の半分」を無視してしまう状態です。例えば、食事をするときに、お皿の右側にある食べ物だけを食べて、左側はそのままにしてしまうことがあります。また、顔を洗うときも、片方の顔だけしか洗わなかったり、服を着るときも片方の腕にしか袖を通さなかったりすることもあります。
これは、右脳に損傷が起きた場合に左側の空間を、左脳に損傷が起きた場合に右側の空間を無視してしまうことが多いとされています。しかし、面白いことに、本人はそのことに全く気づいていない場合がほとんどです。自分が空間の一部を無視しているという自覚がないのです。この「自覚がない」という点が、周りの人々を戸惑わせることもあります。
| 現象 | 例 |
|---|---|
| 食事 | お皿の片側だけ食べる |
| 身だしなみ | 顔の片側だけ洗う、片方の髪だけとかす |
| 文章を読む | 文章の片側からしか読まない |
この無視は、視覚だけでなく、聴覚や触覚など、他の感覚にも及ぶことがあります。例えば、右側から聞こえてくる音に気づかなかったり、右側から触られてもそれを感じなかったりすることもあります。
半盲との比較:見えているのに見えていない?
半盲の場合、先ほども触れたように、視野に「見えない」領域がはっきりと存在します。そのため、壁にぶつかったり、危険なものに気づかなかったりすることはあっても、それは「見えないから」という理由が明確です。しかし、半側空間無視では、その領域に「物があっても、脳がそれを認識しない」のです。だから、壁があっても、そこにあることを認識できずにぶつかってしまう、といったことが起こりえます。
- 半盲で起こりうること:
- 進むべき道に障害物があっても気づきにくい
- 遠くの車に気づきにくい
- 読書が困難になる
半側空間無視の人は、自分の視野に「見えていない」領域があることを自覚していないため、周りの人が「そこにあるよ!」と教えてあげても、なかなか理解できないことがあります。そのため、根気強い声かけや、空間を意識させるような工夫が必要になります。
原因となる脳の場所
半盲の原因となる脳の場所は、視覚情報が脳に伝わる経路のどこかが損傷した場合です。例えば、後頭葉の視覚野が損傷すると、その視覚野が担当している視野の部分が見えなくなります。
一方、半側空間無視は、主に右側の頭頂葉や前頭葉といった、空間の認識や注意を司る部分の損傷によって起こることが多いとされています。特に右脳の損傷で左側の空間を無視することが多く、これは左脳よりも右脳の方が、空間全体の注意を配る役割が大きいと考えられているためです。
この原因となる脳の場所の違いは、リハビリテーションの方法にも影響を与えます。半盲の場合は、見えない部分を補うための補助具を使ったり、残った視野を最大限に活用する練習をしたりします。
リハビリテーションの実際
半盲に対するリハビリテーションは、失われた視野を回復させることは難しい場合が多いため、残った視野を効果的に使う方法を学びます。例えば、顔を動かして視野全体を見る練習をしたり、視覚補助具(拡大鏡など)を使ったりします。
対して、半側空間無視のリハビリテーションは、無視している空間に意識を向ける練習が中心となります。
- 視線誘導訓練: 声かけや指差しなどで、無視している側の空間に注意を向けさせる。
- 環境調整: 無視している側に物を置いたり、注意を引くものを置いたりして、自然と意識を向かせる。
- 代償動作の獲得: 無視している側を意識的に確認する習慣をつける。
例えば、食事の際にお皿を回して、左側にある食べ物も見えるように工夫したり、左側から声をかけるようにしたりすることが有効です。また、本を読むときも、左端に指を置いて、そこから読み始めるように促すこともあります。
日常生活での注意点
半盲の方は、視野の欠損を自覚している場合が多く、安全のために周囲に注意を払おうと努力します。しかし、半側空間無視の方は、その空間を無視しているという自覚がないため、周囲の人が常に注意を払って、事故を防ぐ必要があります。
例えば、半盲の方には「視野が狭くなっているので、ゆっくり歩きましょう」と伝えやすいですが、半側空間無視の方には「右側にあるものに気をつけて」と言っても、それが理解しにくいのです。そのため、日常生活では、安全な環境を整えることが何よりも大切になります。
- 半側空間無視の方への声かけのポイント:
- 「右側を見てみましょう」「左側には何があるかな?」のように、具体的な行動を促す。
- 無視している側に置かれたものを指差して、「これは何?」と尋ねる。
- 食事の際には、お皿を回したり、左側から食べ物を用意したりする。
まとめ:知ることで広がる理解とサポート
「半側空間無視と半盲の違い」は、単に見え方が違うだけでなく、脳の働き方そのものに違いがあることを示しています。半盲は視覚経路の障害、半側空間無視は空間認識の障害と理解することで、それぞれの状態に合った適切なサポートが可能になります。
この二つの現象を正しく理解することは、患者さんご本人だけでなく、ご家族や周囲の人々にとっても、より良い生活を送るための第一歩となるでしょう。脳の不思議な現象について、これからも一緒に学んでいきましょう。